草食系な君と肉食系な僕
15.ぬくもり
私から誘ったんだから、もちろん覚悟の上だった。
酔った勢いだったとしても、それも芯さんの一部には違いないのだから……少しでも彼を癒せるなら…という気持ちだった。
「本当に可愛いな……めちゃくちゃにしてしまいそうだ」
そうつぶやいて、微かにアルコールの香る距離で芯さんは私の頬を優しく撫でた。
元々色気があって男性フェロモン蒔き散らしの人だから…この時の芳しさといったら、形容できないほどだった。
「芯さんのキス……好き」
自分もほんのり酔っているから、大胆になっていて……彼の頬に軽くチュッとキスをする。
すると、突然彼の中で何かモードが切り替わったようで、私の両手首を抑えた状態でベッドに仰向けにされた。
「もう止められないよ?いいんだよね」
「……はい」
どうやら本気モードに入ったらしい芯さんは、鋭い眼差しを光らせて…頬を両手で抱えるようにしながら、いきなり強いキスをしてきた。
前回とはまた違う刺激。
唇を何度も食むように角度を変えて私をベッドに貼り付けていく。
「君は僕のものだよ……逃げられないから、覚悟して」
どこまで本心なのか分からなかったけれど、彼は本当にベッドから全く動けないように拘束した。
怖いというより、彼に拘束されてるのは…何というか…官能的だった。
片手で両手首を固定され、もう片方の手は胸をまさぐる。寝る時はゆるめのブラをしているのだけど、その上から優しく刺激されると…もう声を出す事を我慢するのは無理だった。
「んぁん!」
「気持ちいい?……どっちが感じる?」
左右交互に刺激しながら、彼はゆったり優しい声でそう言う。
「ど……どっちも。やぁ…ん」
感じ過ぎて、自分でもどうなってしまうのか分からない。
苦しいぐらいのキスに加えて、執拗に続ける胸への刺激。
この人……やぱり女性がどんなふうに感じるのか分かっているんだ…なんて、少しだけ冷静な自分もいたりして。
「渚、ちょっと足の力緩めて」
「え?」
ずっとのけぞるように両足に力が入っていたから、言われた通りその力を抜いた。
すると、胸を刺激していた腕を足の間に滑り混ませる。
「あ、待って」
「ダメ。待たない」
下着を先に脱がされ、私はネグリジェをはだけさせた何ともいやらしい姿になってしまった。
「着衣のままっていうの…そそられる」
そうつぶやき、彼は私が必死に抵抗する中……一番恥ずかしい部分を指で刺激しはじめた。
自分で慰めるという方法すら私は良く知らない。だから、彼から受ける刺激は全て生まれて初めてというもので。
「ダメ…もう…」
目の前がぼんやり霞んで、気を失いかけた。
「渚、始まったばっかりだよ」
気を持続させる為に、彼は目が覚めるような…猛烈なキスをした。
私の口は彼の唇で全て占領され、声ではなくて……もう呻きのような音が自分の喉から漏れるのが分かる。
芯さんの「本気モード」は、想像以上にすさまじく、私は最後までできるのか不安になっていた。
それでも、次から次へ訪れる快感の波は決して嫌なものではなく……逆に彼への愛おしさを募らせた。
「いいよ……もっと感じて」
そう言って、彼はすっと姿を消したかと思うと……今まで指で愛撫していたところに顔を埋めていた。
「や、そこはキスする場所じゃないです!」
慌てて足を閉じようとするけれど、腰に力が入らず……彼のなすがままだ。
もう死にたいほどの恥ずかしさ……。
でも、指とは全く違う快感……愛しい人の舌が私の秘部を愛撫している。そう感じただけで、ジュクン……と濡れるのが分かった。
「すごいよ…渚。初めてとは思えない濡れ具合だよ」
私が恥ずかしがっているのを知っていて、彼はさらに刺激を強くするような事を言う。
「言わないで!」
「普段全然興味なさそうにしてる渚が、ベッドではこんなふうに乱れるなんて…誰も知らないんだろうね」
「……」
私が恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら涙ぐんでいると、フッと我に返ったように優しい顔をして、彼はそっと耳元で囁いた。
「好きだよ……渚。君の全てが好きだ」
とても優しい、愛情のこもった言葉だった。
本来の彼は、こんなふうに優しい。
ちゃんと人を愛する事を知っている人なのだ。
リストラで心を痛めているのを知って、私は彼の内面がそれほど荒廃していない事に安心した。
悠里くんを大切にしている姿を見ても分かっていた事だけれど。
この人は随分自分に損な生き方をしているんだ……もっと上辺を優しくして器用に振舞える人もいるだろう。
不器用ながらも、自分の大切な人にはその愛をきちんと伝える。
そんな芯さんの本当の姿が、私には愛おしくてしょうがないものに見えてきた。
「ありがとう、芯さん。私、もう怖くない……あなたを感じたい」
「渚……」
芯さんはもう一度丁寧に優しいキスをしながら、十分に濡れた場所も愛撫し……彼の熱を帯びた固いもので侵入してきた。
「んぁ…あん!」
甘い痛み。心は受け入れたいと思っているのに、体が慣れてないから、まだ侵入を拒む。
「ごめん……少し痛いかもしれない」
そう言って、彼は自分の体重をかけるように深い部分へと進む。
これ以上痛がったら彼も罪悪感を感じるような気がして、私は必死に痛みを耐えた。
「目を開けて……渚、僕をずっと見ていて」
そう言われ、私はぎっちりつむっていた目を開けた。
そこには、妖艶とでも言えるような色っぽい男性がいて……それが芯さんなのだと、再確認する。
「僕がいない生活なんて考えられないように、渚を自分のものにしたい」
「芯さん……」
私は逆に聞きたかった。
芯さんにとって私は必要不可欠ですか?……って。
私は彼の言うとおり、もう夢中になってしまってる。でも、彼はどうかしら。
彼の言う愛って、悠里くんに向けているような家族愛なんだろうか。
それとも……。
「邪推しなくていい。僕だって渚無しではもう生きられないんだから」
私の心を読む術でも持ってるんだろうか。
彼はすかさず自分の心を吐露した。
―――――― そこから先の事は、実はあまり記憶が無い。
私が踏むステップにしては、高過ぎたのかもしれない。
気付いたら、私を抱き枕みたいにして眠る芯さんの顔があった。
邪気の無い、可愛い寝顔だった。
こうしてると、悠里くんに少し似てなくもない。
人の肌が与えてくれるぬくもりっていうのは、とても心地いいものなのだと分かった。
知らなくてもいいなんて思っていたけれど……今、私はとても幸せな気持ちになれている。
「時々意地悪で、困らせられる事もあるけど。私、あなたを心から好きだわ。こんな気持ちにさせてくれてありがとう……」
もちろん本人には聞こえていないんだろうけれど、そっとそんな言葉をつぶやき……自分も夢の中へと落ちていった――――――。
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