ヴィーナス

Side 手島 美月 6


数年して、朝子に子供が出来て学生結婚する事を知った。
お相手は朝子よりひとつ先輩で、もう就職も決まっていたから結婚する事にしたらしい。
「美月のお兄ちゃんに言われた通り・・・世界を広げてみたら、彼に会えたの。やっぱりあなたのお兄ちゃん最高だよ。男としてっていうより・・・やっぱり人間として私はあの人を一生尊敬して生きるわ」
綺麗なウェディングドレスを着て、朝子は最高の笑顔を見せた。

良かった。朝子が幸せになってくれて・・・。

私がお兄ちゃんを好きな事・・・愛している事を、朝子も分かっていた。
そう言われたのは、彼女の結婚が決まった直後だった。

「悔しくてね・・・。どう見ても彼の目線は・・・美月に注がれてた。美月も無意識に彼の事を敬愛してるって分かってた。私はずっとそれを知らんフリしようとしてたの。でも・・・今考えると、相当前からそれに気付いてた気がする。だから、武藤とくっつけ〜っていつも思ってた。ゴメンね・・・私も馬鹿な嫉妬する女だったんだ・・・」

こんな話を正直に告白してくれるのが朝子っていう女性だ。
後ろ暗い事も全部プラスのエネルギーに変えていく。
彼女なら、きっと今の旦那様でも、どんな人とでも前に進んで行けるに違いない。

おめでとう・・・朝子。
幸せになってね・・・。



風の噂で・・・武藤くんにも彼女が出来た事が分かった。
もう同窓会にも顔を出さないし・・・本当に一生会う事は無い気がする・・・武藤くん。
あなたも・・・大事な誰かを見つけたなら・・・やっぱり、私は嬉しい。

だって、大好きなんだもの。
小学生の頃から支え続けてくれた朝子と武藤くんは・・・私の一生の大事な友達だもの。

例え会えなくなっても・・・この気持ちは一生持ち続けるよ。

それに、私にとっての王子様が、もう一生私の前に現れなくても・・・後悔しない。

何が大事か分かったから。
もう迷わない。


私は陽くんだけを心に抱えて生きていく・・・。




大学を1年多く時間かけて卒業した私は・・・そのまま東京で就職した。
会えるはずもないのに、駅のホームに立つと、どこかに陽くんがいるような気がして、きょろきょろしてしまう。

彼がふいに消えてしまってから、5年経とうとしていた。

私も今年で24歳になる。
本当に・・・長いようで、あっという間の青春時代だった・・・。
たくさん笑って・・・泣いて・・・。
苦しい事もあったけれど、私はあのどうしようもなく幼かった自分が愛おしくなっていた。

早く大人になりたくて、悔し涙を流した事さえ、今はちょっと笑えてしまう。
頑張らなくたって・・・私は周りの環境に押されるように・・・自然に大人になった。

友達が・・・家族が・・・そういう人たちが私を大人にしてくれた。



五月。
五月晴れが続いていて、私は家の中にいるのがもったいなくて・・・休日に外出する事にした。
いつも通りホームの端っこに立って電車を待つ。

その後ろで・・・懐かしい声がした。

「美月・・・」

振り返らなくても分かった。
これは・・・この声は、私が待ち続けていた星の王子様なんだって。
バラの様子が気になって・・・きっと帰ってくるって信じてた。


「陽くん・・・」


私は、5月の清々しい風が吹く中、彼の方を向いて・・・満面の笑みを見せた・・・。


ヴィーナス END



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