ワンルームで甘いくちづけを

1. 出会い

1−1

 27歳という微妙な年齢になってしまった私……。
 親戚の叔母さんは兄を亡くして独りきりになった私を心配して、色々気を揉んでいるみたいだ。
「本当にね……あんたの両親が事故で亡くなった時は、これ以上の不幸はないと思ってたのに……祥平(しょうへい)まであんなに早く亡くなるなんてね」
 兄の祥平が鳴くなって五年経つけど、叔母さんはこんな話をして涙する。
 私の中で兄は空の星になんかなってなくて、胸の中にしっかり生きてる。優しくて、強くていつでも笑顔で……私の理想だった。
 両親が中学の時に亡くなったから、祥平兄さんは大学進学を諦めて就職した。頭のいい人だったから、高卒でもかなり早いペースで昇進していたんだけれど……とても治癒の困難な病気になってしまい。まるで私に迷惑をかけたくない……とでも言いたいかのように早く亡くなった。

「私、仕事しながら独りでも生きていけますよ」
 兄以外の男性に反応した事のない私は、こんな体質では結婚なんて絶対無理だろうと思っている。アラサーだというのに男性経験すらないのだ。こんな事友達にすら打ち明けてはいないけれど。
「そうは言うけどね、菜都乃(なつの)……あんたコーヒーショップの店員なんて。何歳まで続けられると思ってるのよ、手に職があるわけでもないし」
「う……」
 痛いところを突かれて言葉が出ない。
 私は元来のんきな性格で、自分の未来何てそう遠くまで見据えて生きてはいない。自分が30代になるのは覚悟できているけど、40代、50代になった自分は全くイメージできない。
 だから今は大きなビルの一階にあるコーヒーショップの店員で満足している。長く働いているから頼りにされてるし……それなりにやりがいもあると思っている。
 でも、こんな理屈は叔母に通用しない。
「ね、悪い事言わないから叔母さんの持ってきたお見合いを一回受けてみなさいよ」
「……はい」
 一度くらいお見合いしないと叔母さんも引き下がってくれそうになかったから、私はこの話を受ける事にした。もちろん結婚する気持ちなんて全然なくて、とりあえずご飯を一緒に食べるくらいで納得してもらえるかな……なんて気楽に考える事にした。

 お相手の名前は、佐伯斗真(さえきとうま)さん。32歳で案外名の知れたルポライターらしい。写真を見せてもらったけれど、まだ20代で通じるような綺麗な容姿だった。でも、何となく……瞳の奥が笑っていないというか……ちょっと影のあるような印象。

 この印象は会ってからも変わる事はなかった。

※色々スランプの為、新作を少しずつアップします。止まらないように頑張ります!

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