Smile! 新生活編2


13−1 意外なライバル SIDE菜恵

 私の知らない間に勝手にモテる夫を持つ私。
 でも、そんな彼の特徴や本質を理解しているから、今は多少の事では動揺しないようになった。
 ただ、気持ちをリフレッシュする場所が欲しいなあっていうのもあって、インドアな私はネットの中にあるサイトに登録した。そこは自分に似せたアバタ―を作って、あまりリアルを持ち込まずにその異世界を楽しむと言うワールド。
 私は自分が夫も子どももいる事を伏せる気もなくて、適度にアバタ―を着飾ったりブログで愚痴を吐いたり、その程度の気晴らしのつもりで入会した。
「あ、今新しい人を招待すると可愛い猫のぬいぐるみがもらえる!」
 これを発見した私は、早速聡彦も誘う事にした。
「……何だ、このサイトは?」
「聡彦には理解難しいかもしれないけど、ここに登録してくれるだけでいいの!私に猫のぬいぐるみをちょうだい」
「別にいいけど、出会い系とかじゃないだろうな?」
「違うよ〜、この可愛いアバタ―に着せ替えしてあげたいだけなの!」
「あっそ……」
 あまり気乗りしないようだったけど、私の押しの強さに負けた聡彦は、やっとサイトに登録をしてくれた。
 聡彦はサイトの事には興味もないし意味不明だったみたいで、私のアバタ―に名前がついている事すら知らない。私は「ジェニー」という適当につけた名前で、この仮想タウンに住むようになった。

 相変わらずのオタク生活な私だけど、会社ではそういう色を出さないよう気を付けている。もちろん子育てで疲れているなんて顔もあまり出さない。
 自分を磨いておかないと、聡彦を狙っている数多くのライバルに何かされてしまうのではないかと気が気じゃないのだ。彼自身は微塵もそんな事を思ってなくて、逆に私がもう少し主婦っぽくなればいいのに……なんて思ってるみたいだ。
(主婦っぽいってどんな感じなの?)
 そこらへんが良くわからない。
 主婦っぽかったら男性が近寄らないとか?そんなことないよね……主婦の人の中にも綺麗な人はいっぱいいるし、まぁ……「旦那のいる人だからな」っていう高嶺の花的な存在にはなるかもしれない。
 でも私はそこまで自惚れてないつもりだし……やっぱりそこそこ努力をしないと、って思っちゃう。

 こんな私に驚くべき情報が入ったのは数日後の事だ。
「え、牧村くんの元カノが入社してきたの?」
 昼食時、何だか元気ないな〜と思っていた牧村くんが久しぶりに私を社食に誘ったのだ。
 聡彦にはいい顔されないと分かってるけど、もう過ぎた事だしいいでしょって気持ちで私も彼の誘いに乗った。
 牧村くんは何だか可愛そうなほど落ち込んでいる。
「もう会う事もないだろうって思ってたのに、舘さん目当てで入社してくるなんて、ハンパないっすよね……」
「ちょっと、うちの夫目当てってどういうこと?」
 ただならぬ情報に、私は若干身を乗り出して牧村くんを見た。
「企画で臨時採用があるとは聞いてましたけど、彼女……就職活動中でしたからね。そういう情報が早いんですよ」
「でもまだ大学生なんでしょ?」
「来年卒業確定の証明書を持ってきて、研修生として働かせてくれって言ってきたらしいです」
「……まじで?」
「まじです」
 聡彦は確かにモテる。
 社内でも未だに人気ナンバーワンを誇る人で、妻がいようがいまいが関係ない人なのだ。
 にしても……聞いていた話でも相当積極的な子だと理解はしていたけど、まさか部下になる為に入社してくるなんてあり得ないほどの積極性だ。
「無視する訳にもいかないですし、俺……どうすりゃいいんでしょうね」
「普通にしてればいいのよ、ていうか…もうそろそろ別の彼女作って過去は忘れた方がいいよ」
 自分の動揺はとりあえず置いておいて、私は牧村くんのフォローをした。
 女はしたたかだ。元彼がいる会社だからって気おくれしたりしないだろう……牧村くんが悩んでも彼にとってのプラスは何もない。
「牧村くんをいいなって思ってる女の子いるでしょ」
「ん〜……告白されたりはしますけど、俺こう見えて案外注文うるさいんで」
「付き合ってみないと相手の良さなんて分からないよ?」
「ですかね……まぁ、元カノに未練があるわけじゃないんで。後藤さんが言ってくれたように普通にしてますよ」
 こんな感じで牧村くんとの会話は終わった。

 家に帰ると、聡彦がパソコンの前で何かをいじくっていた。
「何やってるの?」
「うわっ、ビックリした……菜恵か」
 牧村くんに聞いたことはジリジリゆっくり聞こうと思っていて、今はそれを表情に出さないようにしていた。
「いやいや、和彦の洋服見てたんだけど……やっぱり着るものって店で見ないと分かりにくいよな」
「あ……うん」
 私が変な事であたふたしている間、聡彦は極めて普通のパパとして心穏やかに過ごしていたようだ。何だか軽く罪悪感。
(そうだよね、私も彼にぞっこんだし……聡彦だって私と和彦の事しか考えてないよね)
 そう思い直し、私は後ろから聡彦の首に抱きついた。
「菜恵、どうしたんだよ?」
「ううん、ちょっと甘えてみたかったの」
 聡彦の香りがする。
 大好きな、うっとりする香り……その香に酔いながら、私は自分はこんなに大好きな人と結婚できて本当に幸せだなって思ったりしていた。


*** INDEX ☆ BACK ☆ NEXT ***
inserted by FC2 system