Smile! 新生活編2


13−6 少しの痛みと愛と…… SIDE菜恵


 夫と同じ会社で働くという事のきつさ、同じ境遇になった人にしか分からないかもしれない。
「同じ会社なら浮気防止になっていいじゃない」
 なんて気楽に言う人もいるけど、逆にそれが苦しいの。
 浮気じゃないって分かっていても、女性と親しくしているのが見えてしまう。
 疑えば、そんな自分が醜く見えて。自己嫌悪。
 でも不満は少しずつ積もるから、結果的に本人当たるか逃げ道を探してしまう。結果的には本人とぶつかった方がいいというのが私の経験からくる答え。
 逃げている時間も必要かもしれないけど。
 そのまま道が分かれてしまって、戻れなくなる事もあるような気がする。

 ムーンライトさんには事情を話して退会する事を告げた。
 すると、彼は初めて私の行動に反対の意見を言った。
『夫のくだらない嫉妬の為にここでの交流を切っていいの?』
 まさかこんな事を言われるとは思ってなかったから、ビックリした。もしかすると……ムーンライトさんは距離を保つ努力をしていたけど、私を女として見ていたんだろうか。
 それでも私はやっぱり聡彦が嫌がる事を続けるのはできなかったから、ムーンさんの言葉を振り切った。
「はぁ……何か後味悪い終わりになっちゃったな」
 気軽に始めたものだったけど、結局生きた人間が関わる世界にはトラブルがつきまとうのだと実感した。

 聡彦は退会するんだろうか。
 一応彼のページを最後に見ておこうと思って足を運んだ。
 すると、ブログが一個だけ更新されていて、それを見て私は驚いた。
 タイトルは『君を守る為に』となっていた。

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 僕は君をこの世で一番大切な人だと思ってる
 だから 他の人への愛は小さくなってしまうだろう
 僕の持っている愛はそんなに大きくないんだ

 僕は僕の全てをかけて君を守るよ
 他の大事なものを少し手からこぼしてしまうかもしれないけど
 その事はいずれ行くべき場所に行ったら謝るよ

 君と僕との間に生まれた愛の結晶は当然愛しいよ
 でもね
 やっぱり君の愛無しでは結晶への愛も完璧じゃなくなってしまいそうで

 ひとつだけ知っていて欲しい
 僕は どんな事があっても絶対揺るがない愛を君に抱いてるんだ

 嫉妬や疑いがあっても
 僕は 何万回でも君を説得する
 焼きもちを妬いてくれる可愛い君が好きだよ……こんなこと、顔を見ては言えないけど

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「聡彦……」

 私はPCの前でボロボロと涙をこぼしてしまった。
 画面が涙で歪んで字がよく読めなくなる。

 こんなに強く私を思ってくれている事を、彼が文字に綴るなんて始めてで。
 驚いたし、その表現にも感動した。
 私の嫉妬を可愛いと言ってくれる彼の広さにも……。

 今夜、聡彦が帰ってきたら何て言おう。
 このページを見たって言うべきかな。
 でも、彼は私にこのページを見られることは想定していない気がした。
 それでも何かに表現したくて、ブログを書いたのかもしれない。

 知らん顔して、いつも通りご飯を作って待っていよう。
 そして、夜は私から飛び切り甘い言葉を彼にプレゼントしよう。

 聡彦はツンデレで困っちゃうほどモテる男だけど。
 それでも彼の私へのひたむきな愛情は最初から変わる事はなくて……。
 これからまた何かトラブルがあっても、きっと乗り切れる。

 そう信じて、私は涙を拭った。

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