ヴィーナス

Side 武藤 司 1


小学3年の秋、秋田から俺の住む鳥取に転校してきた女の子がいた。
雪国のイメージが強い秋田。
東北だっけ・・・?
それぐらいの印象しかない・・・マイナーなその県から越してきた手島美月という女の子は・・・真っ白な肌をしていて・・・確かに、雪国の子なんだなって思った。

転校するなり、彼女は浮いていた。
鳥取弁だって相当なまってるのに、東北弁独特のズーズー弁を馬鹿にされていた。

「え〜、秋田弁?発音おかしくない?」

「ちょっとイチゴって言ってみてよ」

クラスメイトの女子にからかわれて、手島は、言われた通り「イチゴ」と言った。
すると、リーダー各の角谷が「キャハハッ!」と笑い声をたてた。
手島はイチゴの「チ」を強く発音した。
別に笑うほど可笑しい事でもないのに、女子っていうのは・・・時々、意味不明に残酷だ。

「イチゴの発音おっかし〜。やっぱりなまってるね」
そんな事を言われて、手島は、泣きそうな顔で俯いた。
まるっきりの知らない土地に引っ越してきて、いきなりイジメみたいな状態に追い込まれて、相当孤独そうにしているのが分かった。

俺はその頃から、かなりの女嫌い・・・というか、女子に関わるのを極力嫌っていて、手島がイジメられていても、知らん顔していた。
今思えば、人間として最悪だったのかな・・・とか思うけど、あの頃の学校での雰囲気を考えると「女子を庇った」っていうだけで、冷やかされるのが目に見えていたし、お互いにいい結果は得られないというのを体で知っていた。

俺と手島は下校班が一緒だった。
雪が多かったり、雨が強かったりすると、この下校班で帰らされた。
6人ぐらいで上級生から下級生まで群がって帰る。
で・・・最後の500メートルぐらいが、俺と手島の二人きりになる時間になった。
今までは手島がいなかったから、この500メートルを俺は走って帰っていた。
でも、手島がノロノロ歩いてるから、置いて帰るわけにもいかなくて・・・仕方なく俺もノロノロ歩いた。

「・・・」
ポケットに手をつっこんで・・・俺は、一言も言葉を発しないまま手島が枝分かれして歩く踏切りあたりまで一緒に歩いた。
手島も何も話さないし・・・下校班で帰る日は、こうやって無言で帰る日が続いていた。


「おい、武藤・・・女子で誰がいい?」
ある日、クラスメイトの中島が、面白半分でそんな事を聞いてきた。
こいつは、小学生だっていうのに・・・付き合うとか付き合わないとか、そういうのを意識しすぎの男子だ。
自分で「モテる」と豪語していたから・・・まあ、そうなんだろうって俺は思っていた。
正直、どうでもいい。
学校でのつまらない授業は我慢して聞く。
好きな教科は「体育」。

・・・以上。

他の音楽やら図工やらは・・・全く駄目。
だから、少しでも楽器とかが弾ける奴の事を尊敬していた。

「女子なんて、うるせーし・・・面倒なだけだろ?」
俺が本気でうっとおしそうにそう言ったのを聞いて、中島は相当驚いていた。

「まじで、そう思ってんの?お前・・・もうちょっと異性意識していいんじゃねえの。言いたくねえけど、女子の中ではお前・・・相当人気あるらしいよ。何もやってないのに、そんだけ人気があるなんて、ちょっと腹立つぐれーだな」
「あっそ・・・。しらねー」

本当にどうでもいいし、放っておいて欲しい。
時々少ない狭い女子の間で、男子の人気投票とかやってるのは知ってたけど、二クラスしか無いこの男女の世界で相手を探そうなんて狭いんだよ・・・なんて思ってる俺は、小学生らしくない男子だったかもしれない。

母子家庭に育っていて、母親と妹の事は守って生きたいと思っていたけれど・・・他の大人なんて誰一人信用してなかったし、同学年の奴にもさほど心を開いてなかった。
成績はともかく、運動神経に関しては絶対的な自信があって、喧嘩なんかふっかけられても、誰にも負けない自信があった。

ま、要するに・・・俺は「負けず嫌い」だ。



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