ヴィーナス

Side 武藤 司 1


高校は、当たり前みたいに、ほとんど皆バラバラになった。
古谷はトップレベルのT高に行って、手島は私立の女子高に行った。
俺はそこそこ・・・っていうレベルのN高に入って、そこでも陸上をやった。
うまくいけば、陸上で大学の特待を得たいな・・・っていう狙いも定まっていて、俺は放課後に校外でコーチになってくれる人を見つけて本気で走る訓練をしていた。

県内に留まる気はなかった。

本気で走るなら・・・県外に飛び出したい。
手島がどういう道を歩くのか・・・見当もつかないけど、高校が別になった段階で、すでに相当距離が開いてしまった気がする。

お互いに積極的に動くタイプじゃないし。
家が近いからって、会う事もめずらしくて・・・本当に会話らしい会話は無くなった。

それでも、ほんのたまに会うことがあって、そういう時は普通にお互い笑顔を見せて近況報告をした。


で・・・高校3年のある日・・・とうとう俺は決定的な事を言ってしまうことになる。
夏も終わって・・・ちょうど涼しい風が心地いい10月頭だったと思う。

手島の帰りと俺の帰りがバッティングして、夕方、駅の改札で偶然会った。
ちょっと懐かしかったから、そのまま駅の待合室で座って話をした。

「え〜、武藤くん相変わらず走ってばっかりなの?少し休まないと・・・心も体も疲れちゃうよ?」
言われてみて俺は、そういえば自分をゆっくり休めた事なんか無いなと思った。

「手島が休みすぎなんだよ。のんきに女子高なんか行ってさ・・・ますます世間知らずになるよ」
俺は負けじと言い返した。

「まあね・・・。でも、私・・・男の人あんまり好きじゃないし。あ、武藤くんは別。何か幼馴染だしね・・・気が楽だから」

そう言って、手島は俺に気を使う事を言った。

手島が男は好きじゃない・・・っていうのは、分かる気がした。
あの、完璧で・・・綺麗な兄貴を持ってるせいだ。
あの男の前では、ほとんどの男が色あせる。
そんな中で、俺はちょっとだけ手島にとっては特別な存在だっていうのが分かって、多少嬉しかった。

「俺も女は嫌いだよ。うるせーし、泣くし、ヒステリックだし・・・でも、まあ・・・俺も手島は嫌いじゃない」

そう言ったら、手島はちょっと顔を赤くして黙った。

「・・・」

何だか・・・俺、そんな特別な事言ったか?
ていうか・・・今のって、告白?
いや、告白じゃないだろ・・・勝手に手島が過剰反応したんだ。

でも・・・もう、この反応を見てしまったら・・・自分の気持ちに嘘をつくのも限界な気がした。
もう高校生だ・・・気持ちのけじめもつけていい気がした。



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