ヴィーナス

Side 手島 美月 1


私の好きな人は武藤くん。
それは・・・大学に入っても変わらない・・・。

そう思って、大学に通い始めてからも彼とはしょっちゅう会っていた。
外で会う日は、やっぱり手を握るのが精一杯で・・・どうにも進展を見せなかった。

そんなある日。
私は武藤くんのアパートに招かれた。
ある意味・・・これは、多少何かある事を覚悟しないといけないのかな・・・と思った。

「たまには部屋でDVDとか見てゆっくりするのもいいだろ?」
そう言って、彼は一人暮らしの狭い部屋に小さなちゃぶ台を置いて、お茶を入れてくれた。

「うん。何か・・・こうやって部屋に二人きりっていうの・・・あのピアノ弾いた日以来だね」

「・・・ああ、随分昔の事だよな。あの時は本当に美月はすげーと思ったよ」

彼は、やっと私の下の名前を呼び捨てにしていた。
私は、時々「司くん」って呼ぶ事も増えていて・・・やや関係が縮まったかなっていう感じだった。

DVDを見ながら・・・私達は並んで座っていた。
何か・・・緊張して、内容がうまく頭に入ってこない。

「美月」
唐突に名前を呼ばれた。

「・・・何?」

「俺の事・・・本当に好き?」

「今さらどうしたの?好きだよ?」

すると、あっという間に彼の唇が私の口を塞いだ。
初めての・・・キス。
彼も慣れてないから・・・ちょっと強引なキスだった。
かなり驚いて、私は思わず顔を背けてしまった。

「・・・何でよけたの?」
悲しげな目で・・・武藤くんが私を見ていた。

「いや、急だったから。驚いたの」
「何で俺が好き・・・?どこが好き?」

こんな強引で強い意思を押し付けてくる彼はめずらしかった。

「え・・・今さらそういうの言わないといけないの?」
「知りたい。美月が何で俺が好きなのか。お前に・・・手が出せない理由を、ハッキリと切り捨てたい」

私に手が出せない理由・・・。

良く分からなかったけれど・・・私は、きのこ狩りの時の事を言うしかなかった。
その前から好感は持っていたけれど、お兄ちゃんに対する強い憧れの気持ちを超えたきっかけは、あれだったっていうのがハッキリしていたから。

「きのこ狩り・・・?」
武藤くんは怪訝な顔をした。
てっきり照れると思ったのに、何だか様子がおかしい。

「うん。恥ずかしくて今まで口にできなかったけど・・・私を直接肌で暖めてくれたでしょう?そのおかげで、私・・・体温を保つ事ができたんだよ。それで助かった・・・ありがとう」

私が率直にあの時の事を説明してお礼を言うと、武藤くんの顔色がどんどん悪くなった。

「・・・俺じゃない。それ・・・俺じゃないよ」

「え・・・?」


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