ワンルームで甘いくちづけを
3誘惑
3−2
優耶くんが私の部屋に転がり込んだ事は斗真さんに知れているらしく、メールで『迷惑かけてごめんね』なんてメッセージが入った。
仮にも男女が一つの部屋にいる状態なんだから、もう少し何か言ってくれるのかと思ったけど、斗真さんは普通に優耶くんが私を慕っているのだと思ったみたいだ。
(ダメだよ……優耶くんと一緒に暮らすような状態……絶対いいはずがない)
そう思って、私は仕事が終わって帰る道すがら優耶くんにどうにか出て行ってもらおうと思っていた。
すると、帰宅するなりスープのいい香りがして、彼がすでに夕飯を作って待っていてくれたのが分かった。
「菜都乃ちゃん、おかえり〜」
「た、ただいま……」
料理が好きらしく、自分が食べたいものを作るだけだからと言ってここに来てからはだいたい毎日こうして調理してくれている。惣菜料理は味付けが濃くて嫌いだ……なんて言うぐらい彼は自炊に凝ってるみたいで。
だから私も黙って彼に料理を任せている。
「今日はポトフだよ、温まるでしょ」
「うん……ありがとう」
天使みたいな笑顔を見せられ、自分が言いたかった事を一瞬忘れそうになる。
(違う、私は今日こそ言うんだ)
勇気を奮いたたせて、優耶くんの前に立つ。
「優耶くん!」
「ん、何?」
鍋を見つめながら、うつろな目つきの彼は力なくそう答えた。
「こんな生活……駄目だよ」
「どうして?いいじゃん……楽しく同棲出来てると思うけど」
「そうじゃないよ、こんな関係おかしい。やっぱり私……」
そう言いかけた瞬間、優耶くんは私の両手首を抑えてグイッとキスをしてきた。
暖かい唇が重なる感触に驚いて、離れようとするんだけど……彼はもっと強く唇を押し付けてくる。
「んっ……んん!」
あまりにも強烈なキスに、私はその場にヘナヘナと座り込んでしまった。
その様子を見て、優耶くんは満足げに微笑んだ。
「どう?キス……気持ちいいでしょ」
「な……」
まだ21歳そこそこの年齢である優耶くんに、私は人形のように軽く扱われる。もっと強気に抵抗してもいいはずなのに……彼の視線を浴びると身動きできなくなる。
まるで何かの魔法にでもかけられたみたいに。
「菜都乃ちゃん、男を落とす才能あると思うよ。これなら結構早めに実現しそうだなぁ」
「何が……実現するの?」
何を考えているのか分からない優耶くんにやや怯えつつ、そう聞いてみると……彼はクスッと笑って私の目の前で片膝をついた。
猫のように光る眼を私に向けながら、顔を近づけ……耳元でピタリと動きを止める。
「君が僕に落ちるのが……」
そっと囁かれたその言葉に、背筋がゾクリとなって『馬鹿な事言わないで!』という心の声は音にならなかった。
「菜都乃は僕を好きになる……そして、僕を好きになった君を……僕は捨てるのさ」
「……っ!?」
あまりにも強烈な行動と言葉に、私はただただ絶句していた。
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